2026.07.04

製造業の工場から、コンカフェの扉を開けるまでの話

正直に言う。2021年にコンカフェを始めたとき、周りには理解してもらえなかった。

「製造業の経営者がなんで?」って顔をされた。何度も。

僕はもともと、名古屋で老舗の製造業を経営していた。

現場があって、職人がいて、モノを作って届ける。地道だけど、確かな手応えがある仕事だった。好きだった。今も好きだ。

でも、ずっとどこかに引っかかりがあった。

「俺が作っているのは、誰かの記憶に残るものじゃないな」って。

製品は使われて、消費されて、忘れられる。それが悪いわけじゃない。でも、自分の中の何かが物足りなかった。

きっかけは、ある日ふらっと入った大須のお店だった。

観光で歩いていたわけでも、目的があったわけでもない。ただ、なんとなく気になって扉を開けた。

そこにいたのは、一生懸命お客さんと向き合うキャストさんたちだった。

笑顔とか、サービスとか、そういうことじゃなくて。「この場所に来てくれてよかった」という気持ちが、ちゃんと伝わってきた。

その帰り道、歩きながら思った。「こういう場所を作れたら、人の記憶に残るな」って。

単純だと思うかもしれない。でも、それが全部の始まりだった。

SUGAR&SPICEをオープンしたのが2021年。

製造業で培ったのは、仕組みを作ることと、現場を動かすこと。そのスキルは使えた。でも、飲食もサービス業も、コンセプトカフェという業態も、ほぼゼロからの勉強だった。

失敗した。たくさん。

キャストさんとの関係で悩んだこともある。運営の方針がぶれたこともある。「このやり方で本当にいいのか」と眠れない夜もあった。

製造業の経営者としての自分と、コンカフェオーナーとしての自分が、しばらくうまく噛み合わなかった。

でも、続けていく中で、一つだけ軸が定まった。

「キャストさんが辞めたくない場所にする」ということ。

売上より先に、これを考えるようにした。

キャストさんが安心して働けない店は、お客さんにも伝わる。笑顔の裏にある疲弊は、必ずどこかに出る。それを製造業の現場で、僕は嫌というほど見てきた。

人が疲れていると、モノの品質も落ちる。それはサービス業でも同じだった。

あれから5年が経って、今は大須で3店舗を運営している。

Mimi、ユメヲカケル!と、それぞれ色の違う店が育ってきた。アイドル事業や協会の活動も広がった。

「なんでそんなにいろいろやるの?」と聞かれることがある。

答えはシンプルで、全部繋がっているからだ。この場所で働く人が誇れる業界にしたい。そのためにできることを、手を変え品を変えやっているだけだ。

工場で仕組みを作っていた頃と、やっていることの本質は変わっていない気がしている。

自分がいなくても回る構造を作ること。でも、想いだけは自分が持ち続けること。

まだ道の途中だけど、あの日の大須の扉を開けてよかったと、今は素直に思える。