「今日、ちょっといいですか」って声をかけてくれたキャストの話
現場って、数字じゃ見えないことが一番多い場所だと思う。
昨日、大須のMimiに顔を出した。特に何かあったわけじゃない。なんとなく気になって、夕方の仕込み時間に立ち寄った感じ。
そしたら、入って3ヶ月になるキャストのひとりが「佐野さん、ちょっといいですか」って声をかけてきた。
正直、最初は身構えた。「辞めます」って言われるのかなって。経営やってると、こういう声のかけ方には条件反射が出てくる。悪い話の前置きって、たいていこのセリフから始まるから。
でも違った。
「最近、お客さんとどう話したらいいか、わからなくなってきて」
それだけだった。
これ、ものすごく大事な話だと思う。
「辞めたい」じゃなくて「うまくなりたい」って悩んでいる。それを自分から言いに来てくれた。3ヶ月でそこまで来てくれてるって、正直うれしかった。
しばらく話を聞いた。
彼女曰く、「最初のうちはとにかく笑顔でいればよかったけど、最近は何を話せばいいのか頭が空っぽになる瞬間がある」と。
これ、誰でも通る壁だと思う。最初の緊張感が薄れて、でもまだ自分のスタイルが確立してない時期。一番しんどいところ。
僕が言ったのは「話題を増やそうとしなくていいよ」ってことだった。
会話ってコンテンツじゃないから。相手が何を話したいかを拾う力の方が、よほど大事。あなたが何か面白いことを言わなくていい。お客さんが「ここで話してよかった」って思えれば、それで十分。
伝わったかどうかはわからない。でも彼女は「少し楽になりました」って言って、仕込みに戻っていった。
こういう会話が、現場の一番の仕事だと思ってる。
僕がいなくても回る店を作りたいとずっと言っているし、それは本当にそう思っている。でも「いなくても回る」って、ほったらかしにするってことじゃない。こういう一対一の積み重ねがあって、初めてスタッフが自分で動ける土台ができる。
SUGAR&SPICEを開業して5年近くが経つ。ユメヲカケル!も含めて3店舗になった今、僕が直接キャスト全員と話せる時間は明らかに減った。それは事実で、正直いつも後ろめたさがある。
全員のことをちゃんと見られてるか、って言われると、胸を張れない。
だから昨日みたいに、向こうから「ちょっといいですか」って来てくれたとき、本当にホッとする。話しかけにくい経営者になってたら終わりだから。
きれいごとみたいに聞こえるかもしれないけど、キャストが辞めたくない店を作りたいってのは、今も変わらず一番の軸だ。
数字じゃ測れない部分を、ちゃんと大事にし続けることが、僕の仕事なんだと思ってる。

