キャストが泣いた夜、私は何もできなかった話
完璧な経営者なんて、どこにもいない。今日はそんな話をしようと思う。
先週のことだ。大須の店舗のひとつ、Mimiで夜のシフトが終わった後、キャストのひとりが更衣室で泣いていた。理由は、お客さんとのちょっとしたすれ違い。悪意があったわけじゃない。でも彼女には刺さった。
私はその場に居合わせたわけじゃない。店長からLINEで報告を受けただけだ。「佐野さん、◯◯ちゃんが……」というメッセージを、夜11時過ぎに自宅で読んだ。
正直、最初に思ったのは「どう動くか」じゃなかった。「今日、もっと早く顔を出しておけばよかった」という後悔だった。
「仕組みを作る人」を目指してはいる。でもその日、仕組みより自分の足が必要だった場面だったかもしれない。それがずっと引っかかっている。
その子は翌日も出勤してくれた。笑顔で。それが救いでもあり、少し胸が痛くもある。プロだな、と思う。だからこそ、こちらも甘えちゃいけない。
コンカフェという仕事は、感情を扱う仕事だ。お客さんの感情も、キャストの感情も、両方だ。それが他の飲食業と根本的に違う部分だと思っている。マニュアルで解決できることと、できないことがある。人と人の間で起きることは、どこまでいっても正解がない。
SUGAR&SPICEを開業したのが2021年。あれから5年近く経って、3店舗になって、アイドル事業まで走っている。規模は大きくなった。でも現場のひとつひとつの出来事に、私が目を届かせられる範囲はどうしても狭くなる。
そのジレンマは、正直ずっとある。
だから今は、キャストが「困った」「しんどい」と言える空気を作ることに一番こだわっている。我慢させない。隠させない。言いやすい関係性を、店長やリーダー陣と一緒に育てている。私への直接報告じゃなくていい。ただ、誰かに言える環境があること。それが最低ラインだと思っている。
先日、SUGAR&SPICEのキャストから「ここ、辞めたくないんですよね」という一言をもらった。何気ない会話の中で、ぽろっと出た言葉だった。
それが今の私には、どんな数字よりも響く。
稼げる店より、辞めたくない店。好かれる店より、信頼される店。そのために何ができるかを考え続けることが、今の自分の仕事だと思っている。
あの夜、更衣室で泣いていた彼女に、私はまだちゃんと向き合えていない気がする。次に顔を合わせたとき、何か言葉をかけようとは思っている。でも気の利いたことが言えるとも限らない。それでも、ちゃんと見ている。それだけは伝えたい。

