2026.10.10

製造業の社長が、なぜコンカフェを始めたのか。その話をしようと思う。

正直に言う。最初は「遊びで始めた」と思われることが怖かった。

2021年、僕は製造業の会社を経営しながら、名古屋・大須にSUGAR&SPICEを開いた。42歳になった今でも、あの決断を振り返ると少し胸がざわつく。

製造業は、父の代から続く仕事だ。鉄とか樹脂とか、目に見えるものを作る世界。品質管理、納期、コスト。そういう言葉で毎日が回っていた。決して嫌いじゃなかった。でも、どこかずっと「自分が作りたいもの」への渇望があった。

転機は、コロナ禍だった。

製造業も打撃を受けた。先の見えない時期に、ふと立ち寄った大須の街で、小さなカフェの前に行列ができているのを見た。雨の日だったと思う。それでも並んでいる人たちの顔が、なんか楽しそうで。「ここに来ることが、今日の活力なんだろうな」と感じた。

そのときに思った。製造業で作ってきたのは「モノ」だった。でも本当は「体験」を作りたかったんじゃないか、と。

最初の店は、本当に手探りだった。製造業の経験なんてほぼ役に立たない。シフトの組み方も、スタッフとの向き合い方も、何もかもが新鮮で、何もかもが失敗の連続だった。

特に辛かったのは、オープンから半年で複数のキャストが辞めていったこと。理由を聞いても、はっきりとは教えてもらえない。製造業では機械が「辞める」ことはない。人が離れていく感覚は、想像以上にきつかった。

悔しくて、たくさん考えた。

出した答えは「稼げる店じゃなくて、辞めたくない店を作る」だった。報酬とか集客の仕組みより先に、キャストが安心して働けるかどうかを最優先にしよう、と。舞台裏を整える仕事の方が、派手な施策より大事だと気づいた。

製造業で学んだことが、ここでようやく活きてきた。「仕組みを作ること」だ。現場が自分なしでも回る構造を作ること。それは工場でも、カフェでも、変わらない。

今はSUGAR&SPICEを含めて3店舗。アイドル事業もイベントも動いている。外から見ると「うまくやってるな」と思われるかもしれない。でも今でも迷うし、判断を間違えることもある。

大須という街が好きだ。ごちゃごちゃしていて、ジャンルが混在していて、でもそれぞれがちゃんと輝いている。そういう街で、自分の店がちゃんと「信頼される場所」になれているかどうかを、今も毎日問い続けている。

製造業の社長がコンカフェを始めた理由。きれいに一言では言えないけど、結局は「人の顔が明るくなる瞬間を作りたかった」ということだと思う。キャストの顔も、お客さんの顔も、両方ね。

それだけは、ブレずにやってきた。これからも、たぶんそうだと思う。